Schmitt Flycasting Movie  UG 使用編     
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   フライフイッシング  よもやま話

  
  No4   音読み 君
   
 1時期、10年越しでこちらの店に出入りしてくださり、今は遠くの町に引っ越してしまったABEさんと
 いうとてもキャスティング熱心な人がいた。キャスティングはサ○ダ○○○に傾倒しており振り方も
 よく似ていた。本人が称するところのハイスピードハイラインなるものを何度も見たが
 ループはタイトで前後のラインの軌道も常に同じで、そのキャスティングはサ○ダ氏以上であることは
 誰の目にも間違いないものだった。ただ、私が目指していたものとは違いナチュラルで自由な
 キャスティングではなくどちらかというと真っ直ぐ「気を付け」をしたスタイルのものだった。
 人柄はとてもよく朴訥で純粋だったが、釣りとキャスティングには自分のスタイルを持っていて
 頑固な部分もあった。
 それでも皆に好かれていて彼が面白いのは何と言っても真面目な顔をして少しずれたことを言うからである。
 早がってんというか、よく確かめないというかそのことがよくわかる話があった。

 解禁の頃に発売になった釣りの雑誌をパラパラと早読みした彼の頭に飛び込んできたのは
 春先の「ミッジフライ」のことだった。たまたま店であった新人に彼は云った。
 「○○君」春先は何たって「ミツジ」のフライだよ。小文字は大きくなった。
 私は、彼が雑誌で 夏の釣りは 夕(ゆう)マズメ 狙いだと書いてあったのを、夕をカタカナのタ(た)と
 読んで、イブニングの釣りを(夕)たまずめと呼び、たまずめ狙いというのが口癖だったのを
 知ってるのでミッジがミツジに変化しても驚きはしなかった。
 ある時、ABEがかなり高そうなブルゾンを着ていたので「どこで買ったのと聞いた」
 彼は Z(ゼット)字屋と云った。それは乙字屋(おとじや)だった。

  
 文字の解釈に関しては天然な感じがするが、他のことでは博学であり釣りや仕事にも熱心である。
 文字の解釈でいうと彼には、独特の理解というのか、個性というか、特徴がある。

 実は人名や地名などを、つい音読みで声に出してしまうことである。ABE氏とは、たまに店で顏を合わせる
 登坂(とさか)さんという人がいる。ABEとは近所でもあるらしいのだが、こちらの店で顏を
 合わせると、(とうはん)さん! (とうはん)さんと声をかけている。
 登坂(とさか)さん本人はそれに対して一切指定しないで普通に話してる。
 だから、彼の中ではもう完全に(とうはん)さんなのである。
 そして中禅寺湖(ちゅうぜんじこ)であるということは、五十里(いかり)湖は
 ごじゅうり湖であるのであり、何度か一緒にこの湖を渡った時も彼はごじゅうり湖と呼んでいた。


 そんな彼と3人で福島に釣りに行った。やはり五十里湖(ごじゅうり湖)経由で会津街道を
 阿賀川沿いに下りながら戸石川の中流部に向かった。
 朝、7時過ぎに前橋を出たので釣りは川の土手でコンビニのおにぎりを食べてからの
 昼頃から始めた。新緑の後半の雪しろも終わった川の魚の活性は高く満足のいった
 釣りが出来た。3時間も遊んで充分な思いがしたので意気投合で納竿することにした。

              

 帰路、ABEが家にお土産を買いたいのでそれらしい店があったら車を止めてほしいと云った。
 栃木に入る前でお菓子屋があったので後部座席で寝ていたABEを降ろした。
 私はABEの買い物に付き合った。
 彼の視線の先には、みちのく最中というお菓子が箱に入ってあった。
 お店では母子とみられる2人が応対した。
 彼は、娘の方に向かって「みちのくさいちゅう」1箱と云った。音読み君発揮である。
 娘は肯定も否定もしない。黙って最中を包んで渡した。

 帰り道、夕食を食べそびれて車を走らせている間に群馬県に入った。
 運転していたWに小腹がすいたねと声をかけた。その声に寝ていたABEが反応して起きた。

 もう前橋までわずかなので夕食よりは彼の買ったお菓子を
 いただこうと思い切ってABEに云った。

 「ねえ!ABE君、さっきのお菓子「みちのくさいちゅう」を1個づつ恵んでくれないかと、、、、、

 ABEは帰っても弟一人しか待っていないので、数は充分だと読んだのか、1個ずつですよと
 云いながら2人に渡してくれた。包装紙を広げながら最中(もなか)の皮のほのかな匂いが心地よかった。
 小豆のわずかに甘い餡が釣り行脚で疲れた体に滋養になるのが感じられる。
 後部座席のABEも袋を広げて口に入れた。

 そして一言云った! 「何だ!もなかじゃないか?騙された」
 
 
 




  
  No 5     トンボ釣り 今日は越後に来ています

 新潟県の東寄りの村上市に釣りや、サケ、マス捕獲調査の対象河川で名を知られた荒川という
 川がある。源流は関川村を経て,さらに山の奥深く山形県朝日岳から日本海に注ぎ
 荒川と二分(にぶ)するほどの長さと規模を持つ支流の玉川は飯豊山塊から水を集めて合流する。
 当然、どちらの源流部も山岳渓流の域でありおいそれとは挑めない。
 その支流の中でも下流は開けていてとても釣りやすいのが大石川である。
 但し、この川のダムの上の源流は相当な技術と経験を積んだ者でなければ行けないところである。

 今回のチームは4人。うち2人は経験も浅く泳ぎや渡渉の繰り返しのある川は到底無理であり
 最初から予定にもない。里川は安全であり釣りやすいのでフライフイッシングをするには最適である。
 しかしながら、山岳渓流で釣れるような40pのイワナなどの期待も出来ないし、魚のプレッシヤーも高い。
 この釣りの時にはなかったが最近聞いた話ではキャッチ アンド リリース区間が設定されているらしい。

 ダムよりは数km下流の近くに集落があるのどかな開けた場所を選んで入った。
 そこは4人が並んで入れるほどの幅のあるところだった。
 バックキャストが好きなだけ取れるので20m先も狙える。
 キャスティングに関しては、誰もが毎週練習してるので#3番ロッドでDTラインでもフルラインを飛ばす。
 かと言って遠くに投げたところでドライフライが確認できない。ドラグもかかりやすい。
 ポイントを小さく絞って上流に向かって並んで釣りあがってみた。
 50mほど進んだが、うんともすーとも無い。気配がないわけでなく足元を走るヤマメもいるのであるが
 どうもこれは我々が川に入る前にすでに誰かが歩いたのではないかと思うほどシビアであり
 誰のフライにもアタックが無い。皆、少し気落ちしているのが見て取れる。

   

 このとき 川の右岸を釣り上がっていた私はフライラインが急にセーブできなくなり
 フライを水面に打つことが出来なくなった。
 何のことだかわからなかったが、しっかりとホールを入れてラインを水面に
 打ちつけるようにして投げた。
 リーダーの先を眼で追いかけて確認するとフライを咥えているのか、抱えているのか
 はっきりとは見えないが赤トンボが付いている。

 その赤とんぼが着水したところからこちらに2mも流れてきたところで突然ヤマメは出た。
 小さなヤマメだったが大きなトンボを捕食するために開けた口は殆ど180度に見えたくらいだ。

 この日、初のヤマメは #16番の小さなスタンダートフライに飛びついたトンボで釣った。

 同行の3人が寄って来て私からヤマメが釣れた経緯を聞いた。
 話しをしながら川面を見るとあちらこちらに赤トンボが飛んでいた。
 顔をあげ抜けるような青空を見上げてみたら翅がきらめいていた。

 私は本当にトンボがフライを捕食したのか確かめるべく、再び12フィートのリーダーに
 直結で結んだドライフライをラインを2mほど出した状態で斜め上の空中目がけて投げた。

 トンボは1投でHIT!ドライフライは咥えられた。私は間髪入れずにフライを流れに叩きつけた。
 ドライは1mほど流れたところでヤマメに食われた。このとき全員で眼にしたのは
 僅か、15cmほどの小さなヤマメがほぼ120度ほどに口を開いてアタックした光景である。
 
 この後、釣れない皆で何をしたかは言うまでもないが、秋空を見上げながら
 フライを高く投げてはトンボにヒットさせ、水面に打ち付けて流す釣りになった。
 
 たまたま、私が最初に2匹ほど釣れたが、やはりそんなに甘くない。後が続かなかった。
 私は、この釣りはなんだかすぐに飽きてしまい離れた場所で堤の上に座って
 小休止して見ていると、それでも彼らは何匹か釣った。
 何だか不思議な光景だった。フライマンが空を仰いで体を後ろに反りながら
 何度も空中にラインを打ち上げる。トンボが咥えると間髪入れずに水面にしゃがみ込むようにして
 ラインを流れに打ち付ける。 
                     
 一般の人や、餌釣り師、そして他のフライマンが見たらびっくりするのか?はたまた笑うのか?
 と考えながらいると背後の道路から声が掛かった。
 それは思いがけなくも同じ群馬からの釣り人でありフライフィッシャーであって
 たまに私の店にも来る知り合いの2人である。

 このたびの大石川での釣果が悪いところに今回のトンボの話をしたら彼らも土手を降りてきて
 トンボ釣りの3人がいる下流に入った。そして3人と同じように天に向かってキャスティングを始めた。

 私の視界は5人のフライマンが、いや大(だい)のおとなが皆(みんな)空に向かって
 真剣にトンボ釣りをしている光景であふれた。宙にラインを放つ!
 トンボを釣ったら水面に向けてバーン!

 発端は自分だったとはいえ客観的に見ていて不思議な眺めである。悪いがこの釣りをしている
 集団の中には混ざらないようにしようと思った。人に聞かれても彼らとは他人だと決めていたい
 思いにならざるを得ない光景が今、目の前にある。

 確か、加賀千代女(かがのちよじょ)の句に「とんぼつり きょうはどこまで いったやら」というのがある。
 今回は、ヤマメ釣りだか、トンボ釣りだかわからないが越後で戯れています。